ある華族の昭和史 上流社会の明暗を見た女の記録 (講談社文庫)
- 作者: 酒井美意子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/08/15
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
半年くらいかかったが、電子書籍で購入して時間の空いた時に少しずつ読んでいた本を読み終えた。
そもそもは沢木耕太郎という人がFMヨコハマの「Sound Travelogue ~沢木耕太郎、日本を旅する~」という番組で、金沢がテーマだった回にこの本を読んだという話をしていて、その内容が面白そうだったので読んでみたのである。
この沢木耕太郎という人は、若い頃にテレビだかラジオだかの番組で作者の酒井美意子さんに会っていて、その時はエチケットに詳しいおばさんとしか思わなかったが、まさか、加賀百万石のお嬢様で、使用人が136人もいるような東京の駒場のお屋敷に住んでいて、ロンドンのハイドパークでは乳母車に乗ったあのエリザベス女王とお会いしているような、そういう人物だとは夢にも思わなかった、なんてことを言ってるわけです。
本の内容はというと、この作者の学生時代の出来事や、母親、父親のこと、そして結婚、戦争、華族でなくなること、GHQ、占領下の生活、そしてその後のエチケットの講師、きものの学校の学長、といったまさに激動の時代を生きた彼女の人生について。
台湾については、
- 明治天皇が前田家に行幸啓(お出まし)になられた時に前田家の宝物として「関白豊臣秀吉高山国(台湾)に与ふる書」をご鑑賞いただいた。
- 16歳の時、駒場の家で初めて参加した公式晩餐会の時に「樹齢千年を超える台湾阿里山の楠(くす)の衝立」が暖炉の前に置かれた。
という2箇所で出てくる。
もちろん、台湾の少年工と高座海軍工廠で一緒だった三島由紀夫が「春の雪」執筆中に鎌倉の別荘を訪れた話も出てくる。
彼は好んで、あの失われた華族の世界、戦時中まではたしかに存在した日本の上流社会を舞台にして美しい作品を発表した。今は崩壊したあの社会の生活様式や言葉遣いや、ものの考え方を克明にメモし、それを彼一流の美意識のもとに物語として再現させた。
作者も文中で「陸軍の田舎侍に文化は無用の長物でしかない」と嘆いているが、戦争によって価値ある文化財がどれほど失われたのか。
金沢にも一度行ってみたいなあ。
加賀藩の宝物を見に。
- 出版社/メーカー: ジェイティビィパブリッシング
- 発売日: 2018/03/10
- メディア: ムック
- この商品を含むブログを見る